1 特別支援学校から一般就労(就職)するまでの過程

 特別支援学校からの一般就労の過程は,通常の高等学校からの就労とは異なります。
<高等学校の場合>
公共職業安定所(ハローワーク)から学校宛に求人票が送付されてきます。その求人票から賃金等の条件等を比較し自分に合っているところに応募し,筆記試験や面接等の入社試験を受け採否が決定します。


<特別支援学校の場合>~就業体験の機会を大切に~
 現状では,求人企業からハローワークに「求人票」を提出し,ハローワーク窓口で公開しております(ハローワーク仙台4F・専門援助第二部門にて)。しかし,新卒障害者用の求人票が公開されるケースはほとんどありません。そのため,進路指導担当が生徒が希望する職種の企業開拓をして,就業体験(実習)を,さらにはその後の就労について交渉しています。一般企業は障害者を雇用した経験がほとんどなかったり,生徒の意欲や技能等を確認したりして適性を見るために「まずは,就業体験を。」ということからスタートします。
 以前に比べ,だいぶ就業体験を引き受けていただける企業は増えたように感じます。
しかしながら,まだまだ職種により見学・体験すら難しい企業もあったり,就業体験の作業活動がかなり限定的であったり,企業での就業体験は,いつでも・どこでも・誰でも就業体験を受け入れられるわけではありません。


~「東日本大震災」を経験して~通勤時の安全意識も・・・
 平成23年3月11日の東日本大震災を経験していることもあり,障害者等へのやさしい対応や協力の理念は拡大していますが,安全に関する面は慎重な面も診られるようになりました。就業体験に協力いただいていた店舗でも,実習生受け入れに慎重
に対応されたケースもありました。「災害時はまずお客様を第一に誘導します。職員は自分自身の安全確保で精一杯となります。」とお話があり,従来の身辺自立・自力通勤・仕事の指示理解だけでなく,危険回避や安全意識や災害時の対応策が求められ
ました。
 その店舗での就業体験では,実習先店舗マニュアルに合わせた対応の他に,さらに通勤・退勤途中での災害・事故の時の連絡方法・避難対応なども提出しました。幸いその就業体験中は余震もありませんでしたが,普段から,危機対応意識向上と通学(通
勤)時の対応などを家庭で確認しておかれた方がよいかと思います。
 交通機関を自由に利用できることで選択の幅が広がります。安心して働き続けるためには,毎日の通勤負担も考えることも,職場選択の一つのポイントかも知れません。
 企業側も,障害者を労働の戦力として雇用も見据えながら就業体験を受け入れる,場合と社会貢献の一つとして就業体験の場を提供する場合とがあります。
 1年後期就業体験など初期段階では,後者の職場で安心して体験させていただくことを目的とすることが多いです。本人のがんばりもありますが,実習生への評価がやさしい記述になっていることが多いです。初期の就業体験は,職場の雰囲気を知り,自信を持ち,働く意欲を高めていくことに重きを置いています。

 

 就業体験を通して企業に障害者の雇用について理解していただき,2週間~3週間就業体験を何回か(生徒によっては3年間)経験する中で,様々な課題を少しずつクリアしていきます。生徒によっては,あえて課題を解決するための就業体験を企画する場合もあります。最終的に労働力として認めていただいて初めて就労の話がつながります。
 しかし,働く力(技能面)や働く意欲と同時にコミュニケーション能力も求められます。仕事上での指示理解や「ほうれんそう(報告)(連絡)(相談)」等の伝達能力,仲間. . .と一緒に働く態度や姿勢,さらには休憩時間の過ごし方や言葉遣い等が求められるケースもあり,日頃から職場で働くことを意識した取り組みが求められます。
 元気なあいさつや返事等のコミュニケーションも就業体験の反省会で話題に上がります。このように一般事業所での就業体験を通して,仕事や社会生活への適応力を培いながら,就職につなげていきます。
 採用の内定を出された段階で勤務内容や勤務時間,賃金について事業主と保護者・進路担当者が話し合います。ハローワークにはこの結果を受けて,学校指定求人票を出していただきます。この求人票には職種・時給・勤務時間等が記載されています。場合によっては,ハローワークの方に事業所に出向いていただき,求人票の出し方や事業主への助成金などについて話をしていただく事もあります。次に,高等学校統一応募用紙(調査書・履歴書)を作成し,ハローワークからいただく紹介状と共に事業所へ提出します。
 これで,採用にかかわる事務は終了です。
3月末には契約の取り交わしが行われます。(事業所によっては4月に入ってからとい う場合もあります。)
 さらに,必要に応じて障害者就業・生活支援センターや相談支援事業所と連携,を図り卒業生への就業・生活相談や事業主への情報提供や相談を行う窓口であることを事業主の方に知っていただいております。
 次に,一般就労がかなうまでどのような取り組みが必要かを述べていきます。


1)一般就労への道のり
(1)働く意識を育む~働く楽しさ・働く喜びを味わわせましょう~
仕事は大変だけど,楽しいものだという思いを体験させていきたいものです。
最終的に求めたいのは,自ら湧き出る仕事へのやりがいや充実感ですが,まず初めの段階では,自分が働いたことで誰かに喜んでもらえることにも気づかせたいものです。「家族から認められている。評価されている。」という気持ちは,何ものにもかえられない大きな意欲につながるものです。
 仕事を与える時は次のように段階を踏まえて実践すると効果が上がります。
①まずやってみせる
②次に一緒にやる
③一人でやらせる。
・わからなくなったら聞く
・終わったら報告
 次は,笑顔で「ありがとう」と仕事への感謝の気持ちを保護者が表しましょ。う自分のした仕事が役に立った実感を持たせます。次の仕事のやる気と,自分が手伝ってもらったときに「ありがとう」と素直に言える習慣作りにもつながります。家族の笑顔がもっと見たくて自分から仕事をするようになったら最高です。
次に,仕事を評価します。良かった所と課題をはっきりさせます。
 課題は話すだけでなく現場で状況を確認しながら,必要に応じてやってみせることや,一緒にやることが重要です。家庭生活の中で,様々な仕事があることに気づかせましょう。
 ご家庭で具体的に取り組めること。それはお手伝いです。お手伝いを積み重ねていくことは大事なことです。前述のとおり,やって見せて・やらせてみて・ほめてあげてください。小さな自信ややる気を積み重ねてください。高等部段階では,家庭の中での「役割」として継続して取り組めたらと思います。「あなたがこの手伝いをしないと家庭生活が回らない。」「あなたが手伝ってくれると家族が助かる。」等,家族から認められたり,やる気や責任を感じたりする経験が「働く」気持ちを育てます。
 ご家庭で,身辺自立や早寝早起き等の生活習慣はもちろん,洗濯物や買い物など重い物を運んだり,冬場には雪かきをしたり,衛生に気をつけながら夕飯の準備を担当する等数多くの経験をさせていただきたいです。
 スーパー(青果部等)のバックヤードや調理補助の仕事などでは,包丁で野菜等を切ったり秤で重さを量ったりすることを求められます。普段のお手伝いの経 験で安全に取り組めた例もあります。
 就業体験の場面では,すべてが初めてのことばかりです。でも,お手伝い経験のある人は,覚えも早くすぐに動けます。いろいろなことに気づきます。働くことが苦にならなくなります。就労継続支援の福祉サービス事業所を選択する場合でも,一般企業(就労)を希望する場合でも,実際に働くのはお子様本人です。
支援学校を卒業したら「働く」ことを日頃から体感しておくことが大切です。「自己選択・自己決定」の大切さが語られるようになってから久しいですが,イメージができていない環境で「選択」することは出来ません。日頃から働く経験をしていること,選択する経験をしておくこと,意思を伝えることを大切にしていきたいものです。
 「就職すること」が最終目的ではありません。安心して働き続け,生活できることが大切です。「働く気持ち」を育て,(経験して)自分の意思を伝えられる力を育てていきたいものです。もちろん,保護者や支援者は,お子様の意思伝達の内容が100%ではなく,その背景や条件なども考えて判断していく必要はあります。
 お子様が「こんな仕事をしたい。」と話した時に,どうしてその選択をしたのか?をしっかり聞くことが就業体験先選択・職場開拓のヒントになります。作業内容(業種)や職場環境(建物),場所,人間環境,これまでのお子様の経験や趣向などか ら考えてみるのも一つの方法です。
 最後の見極めの就業体験で,「やる気が感じられません。」「本人にやる気が出てくればいつでも採用します。本人次第ですね。」と言われ,就職につながらないケースがありました。やる気を表現することは難しいですが,現実にはそのような声もあります。
 保護者や教師に言われたから就職するのではなく,お子様本人が「ここで働きたい。」という気持ちが大切です。

 

(2)挨拶・コミュニケーション
ではコミュニケーションの面,挨拶が基本です。「おはようございます。」や「さようなら。」,「ありがとうございます。」が大きな声でみんなに分かってもらえることが大切です。また,元気よく「はい。」や「わかりました。」という返事,分からない時や困ったときの表現が重要です。きちんと「わかりません。」
と言えることも大きなポイントになります。ご家庭でも,挨拶を見直してみてはいかがでしょうか。
 特に困ってしまった場面では「わかりません。」等と意思表示をさせ,それを受け止めてから手をさしのべるようにお願いします。


(3)保護者の協力
 事業所では,障害者を雇用するにあたり数多くの不安があります。保護者の協力が必要です。保護者と事業所が連携できていればお子様も安心して働き続けられるかと思います。
 常にお子様とコミュニケーションをとって,お子様の意欲・関心や課題,得意なことなどを把握しておくことが大切です。お子様の一番の理解者としてサポートをお願いします。一方で,長い人生・将来の自立を考えた時,すべてを保護者が支えていくことは不可能です。相談員さんをはじめ関係機関・福祉サービス等の支援者と連携していくことも必要です。
 毎日の健康観察で通勤できる環境を整えることや職場の方と情報交換できる関係を作っていくことが大切です。その積み重ねが職場との信頼関係を密にしていきます。